上砂町の家

 

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ある住宅のリノベーションである。
設計士自身が自邸と事務所を一つにするという目的で中古住宅で購入した。
建築士にとって自邸というものは特別な意味を持つ。自分のこれまで考えてきたことの集大成的なものを表現する場としての意味合いもあるし、新しい試みを自由に試せる場でもある。
そしてそのことがこれまでのライフスタイルを大きく見直すことに繋がった。

 

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既存写真

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リノベーション後の同角度より

 

既存住宅は築20年程度の2×4住宅で、2階に高天井のLDKを持つ少し珍しいタイプの住宅であった。
表層的なデザインは自身と妻の好みに合わせ、大きく変えることとなった。

2×4構造のためあまり壁を動かすことも出来ず以前のプランを踏襲せざるを得なかったが、リノベーションをやり始めたときからずっとコンセプトにしている、「スペースを使い切る」を実行し、空間を拡げていく。

 

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1F PLAN

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2F PLAN

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RF PLAN

 

1階は事務所と自身の寝室となっている。寝室にはウォークインクローゼットとシャワー室が併設されている。
またバックヤードの収納部屋を介し各部屋が接続されている。
2階はリビングインとなっており、DKから寝室、洗面所、ロフトが接続されている。洗面所はウォークインクローゼットが併設されており通常の洗面所より比較的大きな空間となっている。

 

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2階 LDK

 

少しでもスペースを、と考えて計画したLDKは大きな空間というよりは個々のスペースの繋がりのような不整形な場となってしまった。これでは置く家具も限られるし、テレビもどこで観るべきかわからない。
現代住宅では一般にインテリアや家具配置の自由度を多くとるために、白い箱のような空間をつくることが望ましいとされている。だがこのLDKではそういった自由度が低い。またLDKは合計15畳以上になるが、矩形15畳のLDKと比べると狭く感じる。

しかしその空間の複雑さは固有の面白さを発している。

不便さはあるが、そういった不便さをどう解消するかが楽しみな住まい方の課題となった。

 

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玄関

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ホール

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洋室1

 

玄関はホールも含めると10畳以上となる。比較的広い玄関やホールがどのような使われ方をするのか、という実験も兼ねてのプランニングをしたつもりであったが、住み始めて数ヵ月がたっても未だ通常の玄関や廊下としての使われ方しかしていないように思う。
だからといって無駄なスペースかというとそうでもなく、単純に物を受け取るのに便利であったり、広々して気持ちがいい。ではその分狭くなってしまった寝室はというと、意外に狭いが落ち着く。

つまり必要最低限のスペースの振り分けだったのではないかと感じている。

 

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ロフト

 

シンプルに必要なスペースを割り振っていった結果の空間構成ではあるが、それぞれのスペースの面積配分を既成概念を取り払い再構築できたと考えている。
一般住宅とは一見かけ離れたプランになってしまったが、士業の事務所兼
住宅としては一般解となりうるプランと感じている。

 

 

Data.

所在. 東京都立川市  竣工. 2018年6月  用途. 専用住宅  設計者. 相馬 均

練馬の喫茶店

 

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一般住宅の1階を喫茶店にする計画である。
施主からは店舗のデザインがこの喫茶店の一番の売りとなるような、道行く人々が思わず入りたくなるような魅力的なデザインを求められた。
また施主の好みは南仏風ということであった。

 

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既存写真

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施工後

 

コストの問題もあり、床など残せる部分は残していった。全体は漆喰で塗装し、疑似ではあるが梁などを付けそれらしく装飾していく。
いわゆる現代建築からは外れるインテリアデザインではあるが、楽しくデザインさせてもらった。

 

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入口より見た写真

 

このような空間は、建築士サイドだけでは完成しない。家具選び、装飾小物選び、果てはメニューデザインまで、全てが細やかに選ばれてこその空間である。
依頼からオープンまでたった3ヶ月の計画ではあったが、非常に密度の濃い打ち合わせと協力体制が実現し、このレベルでの完成に至った。これは私としてもとても有意義な経験となった。

 

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カウンター席

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ソファ席

 

カウンター天板は無垢のフローリング材を加工して制作した。照明もテーブルもソファもインターネットによる直売でコストと工期をギリギリまで詰めている。
ただし厨房の商品は今後の耐久性や保証を考え、全て新品で揃えている。

完成した店内はジャズなどの音楽が流れ、ゆっくりとくつろげる居場所になっている。

 

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テーブル席

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外構

 

茶店においては外構デザインも大きなイメージとなる。施主の多大な努力もあり、練馬の街並みの中で良い意味で異質な空間が作れたと思う。

今では街の隠れ家的カフェとしてとても愛されていると聞く。
この景観を維持してくれる施主と、好み足を止めていってくれる人々に感謝の気持ちが絶えない。

 

 

Data.

所在. 東京都練馬区  竣工. 2016年5月  用途. 飲食店  設計者. 相馬 均

山王町の家

 

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郊外のある住宅のリノベーションである。
施主はDIYを得意としていて、自身で出来ない部分のみのリノベーションを依頼された。
そのため互いの意見を多く交換しあいながら、とても長い期間の計画となった。最初に話をもらってから数年にまたがる工事期間であった。

 

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既存キッチン

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リノベーション後のキッチン

 

好みのインテリアスタイルは施主によって様々ではあるが、今回はブルックリンスタイルやインダストリアルインテリアに近い方向で行くことになった。特に建具の検討は確認作業にかなりの時間を費やした。

施主希望のインターネットでの直売商品は驚くほど安価で、メーカー既製品では出せない味があったが、注文方法や受け取りは融通がきかず苦労する場面もあった。

 

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LDK全景

 

郊外と都市近郊では土地の面積価値が大きく違い建物面積も大きいものが多いが、建物内の部屋に対する面積の割り当ても大きく違うというわけではない。LDKサイズは都心でも郊外でも12畳程度であるし、部屋のサイズも6畳~8畳である。
つまりただ部屋数が多いというだけである。それでは郊外の持つ利点を活かせていない。

それをふまえ今回のリノベーションでは、郊外の面積的利点を活かし、あえて玄関廊下や洗面所などのスペースに余裕を持たせる計画としている。

 

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玄関

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廊下

 

都心ではLDKに面積を少しでも割こうとするので、広い玄関や広い廊下はなかなか望んでも実現しずらい。
玄関はともかく廊下などは無駄なスペースととらえられやすく、なるべく少なくすることが建築士に求められる。

しかしここで実現した広い廊下や玄関は、無駄なスペースには全くならなかったと思う。空間的に拡がりが感じられ、確実に住空間の快適さに一役かっていた。

 

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既存洗面所

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リノベーション後の洗面所

 

そもそも玄関廊下や洗面所というスペースは、住人の誰もが等しく使用するため混雑しがちである。そのスペースを広げるだけで生活様式は大きく変化すると言っても過言ではない。この家のリノベーション後の洗面所は、そこにいる時間を想像するだけで楽しくなる。

現代の住宅の形式の多くは都心型住宅のモデルを郊外の住宅にも適用している。その画一的な住宅モデルを一旦捨てて、地域や敷地、家族構成、施主の要望にそって空間を再構築することがリノベーションの面白いところである。

 

 

Data.

所在. 群馬県伊勢崎市  竣工. 2020年6月  用途. 専用住宅  設計者. 相馬 均

二階堂の家

 

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鎌倉市二階堂でリノベーションの依頼を受けた。2階のLDKを拡張する工事である。

木造軸組工法住宅のリノベーションの中で、天井裏のスペースをどう有効利用するかは常に課題となるが、今回は天井の高さを限界までとる方向で話がまとまった。

ただ和小屋の母屋や束をそのまま見せていいものかと少し悩んだ。建築金物も見えてしまうし、配線を動かすことも一苦労である。しかし梁や金物のうるささが逆に面白いのではないかと思い、そのまま進めることにした。

 

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リビングルーム

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リビングに隣接した子供部屋とロフト

 

天井を落とし梁を見せるということは決まっていたが、その他の細かい部分は決めずに施工に入った。

いくつかあった部屋は全てLDKの1部屋にする予定でいたが、途中であえて1部屋残し子供部屋として上にロフトを作った。都度皆で案を出し合って進めていく様はアドリブの多いジャズセッションに近いかもしれない。

 

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LDK全景

 

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既存部屋

 

取り払えない柱も筋交いも多く、当初想定していたより構造体は多く残ったが、それでも天井を取り払った解放感は大きかった。

また解放感だけではなく、壁や天井で人のいる場所のルールを規制することが建築の意味の一旦だとすると、このリビングは前住人のルールを残った構造体から緩やかに感じつつ新しいルールを作っていく。そこにリノベーション建築の面白さや可能性を感じる。

リノベーションは既存住宅の「使える空間を探し、使い切ること」で新たな価値を創造することが可能だと考えている。その意味でこの家では確実に、既存状態の空間より前に進んだ空間の創造ができたのではないかと思っている。

 

 

Data.

所在. 神奈川県鎌倉市  竣工. 2019年6月  用途. 専用住宅  設計者. 相馬 均