郊外のある住宅のリノベーションである。
かねてから小さな修繕を繰り返している家ではあったが、施主の定年を期に住みやすい現代的な家に生まれ変わらせることとなった。
環境は郊外の静かな住宅地であり、何より庭が魅力的な家であったことから最大限に庭を望む家としての計画が求められた。
築40年を超える家なので、まずはサッシまわりの一新が必要であった。どうせ変えるならとサイズや範囲を大きく変更した。庭を見渡せる、ともすれば庭を歩いているような感覚を得ることができるリビングが実現できたと思っている。
家の構造的なフレームも一部変更し、天井高さを限界まであげて梁を見せることにより、大きな解放感と味のあるデザインを手に入れた。
写真のとおり、LDKの形は少し不整形となった。庭、リビング、キッチンの関係をゾーニング上理想的な位置に並べていき、元の住宅のプランと重ねていったらこうなった。
当然、新築としてこの住宅を計画していたらこのような不思議な形にはならない。リノベーションであることと、部屋の形を四角に整えることを放棄した結果である。
ただ結果的にできたこの不思議なLDKがこの家を良い意味で 特徴づけていることは間違いない。
ずっと言っていることではあるが、住宅はnLDKの形式にこだわることはない。
今回も玄関、洗面所、納戸、寝室、キッチン、ダイニング、リビングのスペース配分は一般的な建売住宅とは大きく違う配分となった。もちろん繋がり方も回遊性をもたせ、廊下などの無駄なスペースを無くし、空間を使い切ることを意識している。
その上で今回のポイントは、キッチンを南側に配置している点にある。計画当初はキッチンが北にあった。これは元のキッチンの位置が北にあったためもあるが、居室は南側に配置するものという固定観念があったためである。
計画段階でいくつかの案を眺めながらふと、キッチンで多くの時間を過ごすのだからキッチンこそ一番良い場所にあったほうがよくないか、ということに気が付いた。
結果このようないびつな形のLDKになったが、毎日庭を感じながら食事を作ることが出来るキッチンの家が出来上がった。
古い住宅をリノベーションによって再利用することが必ずしもエコロジーだと思ったことはない。新築住宅も多く設計してきたし、家の資産的価値はやはり新築であることの強みもある。
ただ単純にリノベーションであることで建て替えよりは費用を抑えられると思っているし、一からの計画ではないことでこのような不思議な魅力のある空間を作るきっかけになるとも思う。
あらためてそれに気づかせてくれた計画であった。
Data.
所在. 東京都あきる野市 竣工. 2020年5月 用途. 専用住宅 設計者. 相馬 均